日本が「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)の参考にしたイギリスが、昨秋に新規PFIをストップした。しかし、そのイギリスでさえ今もなお、公共サービスを持続させるうえで民間企業との協働への期待は高い。
PFIを止めた3つの理由
PFIの目的の1つであった工期・予算オーバーが改善し、発注者側の能力も上がった。その結果、PFIでなければ工事が終わらないという懸念が減少した。これが新規PFIをストップする1つの理由となった。
一方、長期的な政府債務は増えた。これが2つ目の理由だ。PF2という改良モデルが出たが、それでも民間企業の利益に対する不信感はぬぐい切れなかった。
そして3つ目として最後の引き金を引いたのは、大手PFI事業者であったゼネコンのカリリオンの倒産だ。とりわけ問題視されたのは建設途中だった病院の案件で、財務省もSPCに出資する株主であったにもかかわらず、工事の状況や同社の経営状態をモニタリングできなかったことである。政府内部でも監督省庁として民間を指導する立場と、民間と一緒に事業をする立場に分かれ、利益相反が生じていた。
こうして一気にPFI反対の世論が形成された。イギリスの会計検査院は18年にまとめたレポートで「PFIが有効であり、VFMも改善できたという明確な根拠は発見できなかった」と結論した。そしてPPP推進派は、これに反論する確固たる根拠を示せず、PFIストップという現状に至った。
それでもイギリスは官民連携を試行する
しかし、イギリスでPPPやPFIの必要性がなくなったわけではない。PFI中止を財務大臣が公表した直後、財務省は「民間資金による公共投資の必要性は変わっていない」と記された資料を発表している。インフラファイナンスに強い金融人材の流出を懸念する声もあり、それを避けるためにもPPPやPFIが必要という認識は未だ強い。
そうした中でスコットランドやウェールズでは、「MIM」(ミューチュアルインベストメントモデル)と呼ばれる新たなPPPモデルが生まれてきている。
同モデルでは、入札段階で民間企業から提案されたパーセンテージで企業利益にキャップをかける。そうして選ばれた民間と政府が共同出資のSPCを立ち上げ、10年間にわたり様々な事業を実施する。
特筆すべきは、SPCが事業の上流である計画段階から関与することだ。通常のPFIでは発注段階ですでに官側が考えた計画が出来上がっており、民間の創意工夫が発揮しにくい。
これに対しMIMのSPCは、FSを実施して事業を組成できる立場にある。例えば隣り合うA市とB市が個別に浄水場の整備を構想している場合、一緒に整備するよう提案したりする。事業段階では同社が設計会社などに発注する。
ミューチュアルというモデル名から伺えるように、従来に比べより官と民が相互に補い合える仕組みと言える。
その他、新たな動きとして「ペイバイリゾルト」「アウトカムベース」(成果に対する報酬の支払い)の考え方が浸透しつつある。PFIやPPPにとどまらず、国から地方への補助金や交付金についても、成果が上がらなければ減額されることがある。この考え方は日本でも取り入れるべきであろう。
民間がPPPイノベーションを起こす
日本はかつてイギリスを参考にPFIを導入したが、その後、PFIはイギリスと日本で個別に進化した。これまで述べてきたように、イギリスでは新規PFIを止めると宣言した後も、民間とより良い形で協働できるさまざまなスキームを試行し続けている。
日本の歴史や商習慣、経済・社会環境に合ったPPPやPFIの形は、日本が考えて行かなければならない。イギリスに学ぶことがあるとするなら、新しいことへ挑戦する姿勢と、民間が主導してイノベーションを起していることであろう。(完)
4期生 難波 悠
経済学研究科公民連携専攻 教授
5期生 奥田 早希子(執筆)
一般社団法人Water-n 代表理事、フリーライター・編集者
活動分野は水インフラ
Webジャーナル「Mizu Design」運営
水を還すヒト・コト・モノマガジン「Water-n」発行
下水道広報プラットホーム企画運営委員、環境新聞契約記者など
(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)