実践!ソーシャルインパクトボンドによるヘルスケアサービス

つくばウエルネスリサーチ 鶴園氏に聞く

株式会社つくばウエルネスリサーチ(以下、TWR社)は、自治体連携ヘルスケア構築事業にソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)手法を活用していることで知られています。そこで、TWR社で主に自治体のコンサルティング業務を担当し、SIB事業の現場責任者として活躍されている鶴園卓也氏(6.5期生、リサーチパートナー)に、SIB事業について伺いました。(聞き手:金志煥、6期生)

筑波大学発のベンチャー企業として創業

ーーTWR社が成果連動型事業(SIB事業)に取り組む理由、背景について教えてください。

TWR社は筑波大学発のベンチャー企業として、2002年7月1日に創業されました。

筑波大学久野研究室が茨城県大洋村(現:鉾田市)と協働で1996年に実施した健康増進プログラム(大洋村プロジェクト)の成果に基づいており、全国の自治体や企業等とともにヘルスケア事業を展開しています。

どの自治体でもヘルスケア事業を実施していますが、その内容は自治体ごとで大きく異なっています。その中で、先進的な自治体は健康に関心が少ない市民(健康無関心層)の参加や医療費等の抑制を図ることなど、具体的な成果につながる事業の実施を志向していることから、企業としてそうした自治体と協働してSIB事業を取り組むべき理由がありました。

そうした背景の下で、TWR社がSIB事業を最初に取り組んだのが筑波大学、タニタヘルスリンク、常陽銀行、TWR社をコアメンバーとして、兵庫県川西市、新潟県見附市、千葉県白子市の3市町参加で実施した飛び地型広域自治体連携SIB事業です。

アウトカムに基づいたアウトプットを設定

ーーSIB手法を活用した事業スキーム事例の紹介と実務上の留意点について教えてください。

タニタヘルスリンクとTWR社が構成員としてSPC(サービス事業者)を組成し、ICTを活用したヘルスケア事業を自治体から成果連動型の委託を受けます。その際に最終目標のKGI(Key Goal Indicator)、単年度目標のKPI(Key Performance Indicators)を設定し、その目標を達成すれば成果に応じたインセンティブの対価を受けるというものです。

これらの目標はエビデンスに基づく数値目標を設定しており、第三者機関である筑波大学がアウトプット及びアウトカム指標を評価することになります。

SIB事業におけるTWR社の役割は、中間支援組織としてKPI・KGI達成のための課題整理と課題への対策を実行することです。そして、自治体やサービス事業者等のステークホルダーと議論しながら、円滑な事業遂行に向けたマネジメントしていくことです。

SIB事業を進めるうえで留意すべき点の一つとして、自治体が実施する健康づくり事業に関心が少ない市民(健康無関心層)に対して、事業に参加を促す施策への助言や効果検証を行うことがあげられます。

そして、データやエビデンスに基づきPDCAサイクルを回し、連携自治体がより効果的に成果につながる施策を推進していかなければなりません。また、一つの自治体での成功事例をそこで留めずに、連携自治体へ横展開することがとても重要です。

具体的には、最終目標のKGI、単年度目標のKPIの数値化をいかに設定するかが重要であり、SIB事業の設計の肝になります。特に、従来の自治体におけるヘルスケア事業は、事業に何人参加したか等、アウトプットだけが重視されていることが多かったのですが、アウトカムに基づいたアウトプットの設定を行うことが重要です。

すなわち、本事業においては医療費や介護給付費の抑制をKGIとして、健康度が低いとされる無関心層の参加率や事業参加者の身体活動量の増加等をKPIとして設定することになります。

データ活用、ノウハウ蓄積、人材育成で持続可能な事業に

ーーSIB手法を活用した事業の課題と、今後の取り組みについて教えてください。

SIB事業で成果を出すためには、成果連動型の委託により、サービス事業者の創意工夫とそれに対するインセンティブをどのように設定するかが課題となります。

今後の取り組みとして重視すべき点は、ICTにより収集されたデータを活用して、現状分析に基づきより効果的な施策を展開すること、実施した施策がヘルスケア事業の現場でノウハウとして蓄積されていくこと、データを活用した課題解決を現場で実行できる人材を育成することです。

また、連携自治体がKPI・KGIを達成するためには、TWR社がステークホルダーの人材育成に関与することが重要であり、筑波大学と連携し講師派遣や研修支援を行っています。その際には、自治体のトップの理解と協力が大事であり、連携自治体が事業推進のプロセスを通じて、職員の能力が向上していくことも念頭において欲しいと思います。

これらの課題を解決する取り組みができて初めて、SIB事業が持続可能な事業として継続できるものと考えています。


■ インタビューを終えて

鶴園氏へのインタビューは概ね2時間程度となり、SIB手法を活用した事業に関するいろいろな事項をざっくばらんにお話しいただきました。

SIB手法を活用した事業自体は、元々は英国の事例が日本に紹介され、内閣府も推奨しているところですが、自治体に成果連動型の委託や補助金事業として、導入されているケースはまだまだ少ないのが実情です。

TWR社が関与するSIB手法を活用した事業は、広域自治体が連携する事業ですが、東近江市や西条市など、単独の自治体が実施する事例もあります。また、事業にも医療・健康・福祉関連事業だけでなく、まちづくりや観光及び産業振興にも展開できる可能性があり、まずは成果連動型の委託または補助金事業を自治体が積極的に活用する必要があると思いました。(金)


6.5期生 鶴園 卓也

株式会社つくばウエルネスリサーチ シニアエキスパート
株式会社コナミスポーツ&ライフを経て、2014年つくばウエルネスリサーチへ入社。
一貫して自治体及び企業等への健康増進事業コンサルティング業務を担当。
これまでに50団体以上の健康運動教室事業や健幸ポイント事業・SIB(ソーシャルインパクトボンド)事業の立上げと継続支援を担う。

インタビュアー

6期生 金 志煥
金 公認会計士事務所 所長
公認会計士・税理士
非営利法人、とりわけNPO法人等のお金や経営の悩みを一緒に解決する専門家
地方自治体の監査や業務支援も実施。

(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)