岡崎市龍北総合運動場整備事業について

PFI先進自治体における地産地消型のPFI事業

岡崎市が県から移管を受けた総合運動場をPFI事業でリニューアルした。PFI事業にあってのポイントは、事業化までの最小限のリードタイム、RO方式の採用、プロフィット・シェアリングの導入等である。

メインの施設である陸上競技場のエントランス

事業の発端

岡崎市は、市内にある愛知県営の「愛知県岡崎総合運動場」について、平成27 年4月に市に移管することで愛知県と基本的な合意に達した。

市では平成29 年3 月に「(仮称)龍北総合運動場整備基本計画」を策定し、施設の改修・再整備を行うこととした。

事業の特徴と工夫点

民間提案のクラブハウス

本事業の特徴は、事業化の早さ、改修型事業であること、市民サービスの質を高めるために事業者の創意工夫を積極的に導入した所にある。

龍北総合運動場は、基本計画検討当初は、PFI事業の導入を想定していなかった。しかし、基本計画策定中にPFI事業導入の方針が決まり、基本計画策定と同時並行でPFI導入可能性検討、実施方針や業務要求水準書、事業者選定基準など検討を行い、平成29年3月末に基本計画公表の直後、平成29年4月当初に実施方針と要求水準書(案)を公表した。

検討開始から実施方針公表までの早さは、庁内のPPP事業に対する知見の蓄積とそれに基づく意思決定の早さもあるが、スポーツ振興課が、施設に対するイメージと事業者に期待したいことを明確にイメージできていたことが大きい。事業化までのリードタイムを最小としたことでPFI事業を導入しても従来方式と同様の時期に施設の共用開始ができている。

龍北運動場のPFI事業は、県の岡崎総合運動場を再活用する事業であるため、RO方式による事業としている。ただし、陸上競技場については第3種陸上競技場として新たにスタンド整備する必要があるため、スタンド施設は、BTO方としている。

質の高い市民サービスの提供

8面ある照明付きのテニスコート

本事業では、市の事業目的に合致する範囲内で、事業者の提案に基づく独自の事業展開を認めることで事業者も稼ぎつつ、市民サービスも充実させるスキームを導入した。具体的には、提案施設、提案事業、独立採算施設、独立採算事業という枠を設け、事業者が独自に収益を得られる仕組みを導入している。これらは、事業者が収益を上げられる一方で施設利用者に様々なサービスを提供できる様になるため、市民サービスの充実の観点からも有効な手法といえる。

事前の調査において事業者からはフィットネスジム等の設置を求める意見もあった。しかし、市としては、積極的な導入を図るものではなかった。そのため、クラブハウスを提案施設と位置付け、提案があれば評価し、施設整備後に事業者が市に施設の所有権を移転(BTO方式)としても良いこととした。事業者が必要とする場合は、提案施設内で提案事業又は独立採算事業を行うスペースを付帯することを認め、その中で事業者の独自の事業ができるようにした。

これにより、事業者は、事業期間終了後の施設の取扱に悩むことなく提案事業又は独立採算事業を展開して収益を上げることができ、市は市民サービスを向上につながる機能を取得することができた。

プロフィット・シェアリングの導入と事業者へのインセンティブ

事業者が利用料金収入や提案事業、独立採算事業を展開することで、施設の利用促進が図られる一方で、収益中心の施設となることは望ましくない。そのため、市が見込んだ以上の利用料金収入があった場合に、事業者が提案した割合で利用料金収入の一部を市に納付させるプロフィット・シェアリングを導入した。

あわせて、事業者に対するインセンティブとして、モニタリングの結果、事前に定めた基準以上の成果があった場合は、翌年度の利用料金収入の市への納付割合の減免とすることとした。

これにより、事業者の経営努力の還元と事業収入の市への還元の両立をはかるスキームとした。

市民のための運動施設

人工芝のサッカー・ラグビー場

陸上競技場は、大会運営が可能な第3種公認の陸上競技場とし、天然芝のインフィールド、約1000席のスタンドを備えたサッカー(JFL)の公式戦も開催可能な施設とし観るスポーツにも対応する施設となっている。

テニスコートは、硬式テニスに対応した砂入り人工芝のコートが8面あり、法面を利用した観覧席と夜間照明を設けており、市民利用から大会運営まで多目的に利用できる施設となっている。

その他、ロングパイル人工芝のサッカー・ラグビー場やダグアウトを新設した野球場、バリアフリー化を行ったアーチェリー場など、各施設を改修することで、旧県営運動場よりも1ランク上の運動施設を実現している。

地域振興につながるPFI事業

本事業は、市内の建設企業である酒部建設(株)が代表企業となり、大手企業である設計企業、運営企業、維持管理企業とタッグを組んで事業を推進している。

酒部建設(株)は、大手企業と連携する一方で、市内事業者である強みを発揮して地域企業と連携して事業展開している。施設の運営・維持管理に係る雇用も市内の人材を活用する事業となっており、本事業は、地域の事業を地域の企業が大手企業と連携しながら担い、地域(市民)にサービスを提供する地産地消型の地域振興につながるPFI事業となっている。


4期生 水嶋 啓
ランドブレイン株式会社 公民連携チーム 執行役員兼技術官
官庁コンサルでPPP/PFI等のコンサルティングを担当

(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)