PFI学校給食センターの付帯事業で稼働率は上がるか

学童保育の弁当や災害時の非常食作りを自治体要求

公共施設マネジメントの観点から稼働時間の短さが指摘されている学校給食センター。PPP/PFI方式で整備運営される学校給食センターでも、学校給食以外を提供する試みが始まろうとしている。例えば、夏休みの学童保育の弁当作りや災害時の非常食作りだ。文部科学省の補助金を受けて作られる学校給食センターでは、給食提供以外の業務は難しいとされる流れを変えることになるのか。最近の話題から報告する。

学校給食センターの稼働率は18.7%

南学先生が「シティ・マネジメントⅠ」の講義の中で学校施設の稼働率を試算していた。それによると10カ月(83%)、週5日(71%)、1日7時間(29%)なので0.83×0.71×0.29=0.171、つまり稼働率は17.1%だ。

学校給食センターは年間200日(56.2%)、1日8時間(33.3%)なので0.562×0.333=0.187。学校施設をわずかに上回る(というのもはばかられる)18.7%に過ぎない。

公共施設マネジメントの観点から、学校給食センターの多機能化は各地で検討され、筆者が修士論文(2020)で触れた通り、神奈川県海老名市の「食の創造館」(という学校給食センター)では2013年から幼稚園年長児童への給食と高齢者向けの「ふれあいランチ」を作っている。

また、岩手県遠野市は、高齢者向けの配食サービスや防災などの機能も持つ「総合食育センター」を2013年から稼働させている。これらはいずれも従来手法(公共による施設整備、運営)によって作られた。

一方、北海道伊達市にPFI方式で整備され、2018年1月から運営が始まった「だて歴史の杜食育センター」は、学校給食の提供に加えて、食育レストランを併設している。食育レストラン「Eスプーン」は児童生徒に提供するその日の給食を一般にも提供する。

また、本大学院での先行研究である平山(2019)によれば、学校給食調理以外の時間帯にスーパーマーケットなど民間向けの弁当や総菜なども調理、販売する「見附市学校給食センター」の事例、福祉との連携で障害者の働く場の提供を実現し新調理システム「クックチル」を導入した「坂井市丸岡南中事業所」の事例を挙げている。この2事例はいずれも公共による施設整備で、調理が民間委託である。

公共施設マネジメントの観点で「付帯事業」要求

ここにきて、公共施設マネジメントの観点からPFI事業の手法を使った学校給食センター整備運営事業に「付帯事業」として学校給食の提供以外の業務を求める例が出てきている。

その一つとして、筆者が勤務する学校給食調理会社が今年(2020年)5月に落札した兵庫県川西市の例を紹介する。

同センター整備運営事業は、現在は中学校給食のない同市の中学生向けに4,100食を提供するもの。2021年4月ごろまでに基本・詳細設計を終え、建設工事を経て、2022年2学期から給食提供の予定だ。本論とは無関係だが同市の越田謙治郎氏(編集部注:川西市長)の子どもは現在、小学校5年生で市立に進めば同年中学校に入学する。

同整備事業の要求水準書から引用する。市が提案を期待している付帯事業(図1)として「給食センターを活用した夏休み期間中の留守家庭児童育成クラブへの昼食配食サービス」と書かれている。つまり、夏休み中の学童保育の弁当を出してほしいという要求だ。事業者としては、学童保育の弁当を提案するしかない。

図1 川西市の要求水準書の一部

ところで、横浜市の中学校のように学校給食のない自治体は、デリバリー弁当を選択できるところが大半だ。弁当は図2のような形態で提供される。デリバリー弁当をめぐって神奈川県大磯町で起きた”事件”を紹介する。

図2 中学校で提供されるデリバリー弁当の例

おいしく食べてもらうため温かい弁当を提供

2017年10月に同町の2中学校で実施していたデリバリー弁当を休止(その後、中止)したことがあった。同10月12日の町教育委員会の記者会見によると「異物混入などがあった弁当製造業者から『継続は困難』との意向が示されたため」としている。

デリバリー弁当は中崎久雄町長の肝いりで実施したが、「まずい」と生徒から不評で、食べ残しが50%を上回る日もあったという。また毛髪や繊維、虫などの混入が84件あり、このうち15件が弁当製造工場で混入したとされている。逆に言うと84件中69件は製造工場以外(つまり配送中や給食中)に混入したことになる。

中崎町長は町議会で、生徒に迷惑をかけたことを「痛恨の極み」と謝罪もしており、給食業者との契約解除に向けて動き出していた中、業者側から継続困難との連絡があったという。

弁当は調理の過程で弁当箱に詰める前に冷まさなくてはならない。つまり、大磯町の中学生は「冷たくて」まずい弁当が不満だったと推測される。

川西市の我々の提案は、保温容器を使った図3のような弁当とした。この容器はサーモス社製の保温容器だ。これにより、2023年の夏休みから川西市の小学生で夏休み中の学童保育に通う児童には、温かい弁当が提供されることになる。

図3 川西市に提案した容器

学校給食業者にとって、このような保温容器はアレルギー対応食で普段から使っている容器でもあり、なじみ深い。

災害時の非常食レトルトカレー製造をもくろむ自治体も

もう1件は、まだ導入可能性調査前の段階だが、すでに自治体が事業者に災害時の非常食としてのレトルトカレーの製造が「出来ますか」という打診を繰り返している例である。自治体名は伏せたい。2025年の供用開始を目指しているので、業者選定は2022年とみられる。

この自治体が付帯事業として挙げた条件は次の通り。
・レトルトカレーを学校給食センターの通常の給食提供とは別に作ってほしい。
・年間4万5000食を作り、1食250円で市が買い取る。
・市内の全小学生が年に一度、このカレーを温めて給食とする。
・これは維持管理運営期間中の15年間、毎年、4万5000食を作る。
・事業者は、製造したレトルトカレーを市販することも可能。

小学生が4万5000人は匿名になっていない可能性もあるが、この食数は原稿に不可欠なので入れる。

レトルトカレーを作るには、学校給食センターが通常に持つ機能(機器)に加えて、充填機と高温高圧殺菌装置(図4)のようなものが必要になる。4万5000食を何日で作るかにもよるが、まとめて作るとなると殺菌装置は大型のものが必要になる。わが社の試算では充填機と殺菌装置で約8000万円とみている。

図4 殺菌装置(日阪製作所)

市の買い上げ価格250円から計算すると15年間で250円×45,000食×15年=1億6875万円なので、PFI事業とは別会計で8000万円の設備投資をしても、金額的には回収できる。

しかし、高額な設備投資をしても年間4万5000食しか作らないのは、機械として正しい使い方なのか。市販するカレーを作るか。量販店に行けば安いものは100円そこそこで売られているレトルトカレーに価格で対抗できるのか。悩みは深い。


13期生 須藤 晃
日本国民食株式会社取締役営業開発部長
毎日新聞社で社会部、科学環境部などの記者を経て2017年に学校給食調理会社である現在の会社に出向。2018年に新聞社を定年退職し同社入社。2020年7月、取締役に就任。61歳

(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)