イギリスはなぜ、PFIを止めたのか

東洋大学経済学部、難波悠准教授<講演概要>(上)

「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が1999年に施行されてから今年で20年が経過する。この間、上下水道分野でもPFIが活用されてきた。同法で参考にしたのはイギリスだったが、昨秋、そのイギリスが新規PFIは行わないと発表した。海外のPPP制度に詳しい東洋大学経済学部の難波悠准教授は「その理由を知ることで、これから日本で公共サービスを持続させるヒントを見出せる」と指摘する。難波准教授の講演内容を2回に分けて紹介する。

東洋大学経済学部 難波悠准教授

PFIを始めた3つの理由

イギリスが90年代にPFIを始めた時代背景や目的には、大きく3つあると考えられる。

  1. サッチャー政権下、小さな政府を目指していたこと。
  2. EUの仲間入りをする前提として、借金が認められなかったことだ。そこで、民間資金で公共インフラを整備し、そこから提供される公共サービスを購入するという手法を発明した。これがPFIだ。あくまでも官側はサービスを購入しているだけなので、施設はオフバランス化でき、借金ではないというロジックである。
  3. 公共工事の遅延と予算オーバーが顕著であったこと。発注者側の能力不足と、工事業界の体質が背景にある。PFIで民間に借金をさせれば返済しないといけないというプレッシャーが民間側に生まれ、きちんと工事を終わらせるだろうと期待された。

それでも90年代は動きは鈍かった。補助金申請の書類や発注の手順などについて標準化したりガイドラインをまとめるなどした結果、2000年代にかけてPFIは急速に拡大した。

PFIに一定の評価

拡大するにつれて批判も高まった。

民間が儲けすぎているのではないか、民間は何をやっているのか分からないという声があがった。

また、施設はオフバランス化して(つまり借金せずに)サービスを購入しているだけと言っているが、何十年も支払い続けるということはやはり借金なのではないかという見方が出始め「隠れ負債」への懸念も膨らんだ。PFI事業での事故や運営トラブルも逆風になった。

そこで12年に生まれたのが、官側がPFI事業者(SPC)に出資するPF2モデルだ。官側が株主としてSPCの経営に参画することで、透明性を向上することを狙った。

批判はあったにせよ「PFIの成果は一定程度はあった」というのがイギリス政府の総括だ。当初目的の1つとしていた工期・予算オーバーは、97年当時の70%から10年間で30%まで改善できた。

書類の標準化などを進めたおかげで、発注者側の能力もある程度の水準を保てるようになった効果だろう。財政負担なくインフラを整備できたことなどを成果として捉えている。
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批判はあったが改良もし、成果も上がっている。にもかかわらず、なぜイギリスは新規PFIをストップしたのか。次回はその理由に迫る。


4期生 難波 悠

経済学研究科公民連携専攻 教授

 

5期生 奥田 早希子(執筆)

一般社団法人Water-n 代表理事、フリーライター・編集者
活動分野は水インフラ
Webジャーナル「Mizu Design」運営
水を還すヒト・コト・モノマガジン「Water-n」発行
下水道広報プラットホーム企画運営委員、環境新聞契約記者など

(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)