【視察報告】米:多様な官民の連携に出会った

PPP視察ツアー報告:2017年(米編)

アメリカは、官民の契約に関する垣根が低く、幅広い官民の協働の形態がとられている。2017年の視察では、2013年に破産を申請したミシガン州デトロイト市、ワシントンDCで連邦運輸局のビルドアメリカ局と全米PPP協会(NCPPP)、フロリダ州の州商務局とオーランド市、ジョージア州サンディスプリングス市を訪問した。

この視察では、アメリカでの多様な自治体と民間の関係を見ると同時に、財政が起債能力などに直接影響するため民間投資の呼び込みにも影響する様子も見て取れた。また、いずれの自治体も官民を挙げて不動産の価値向上に取り組む姿勢が明確なことが印象的だった。

1日目/デトロイト市・破産処理と民間による都市再生

財政局財務部長のジョン・ナグリック氏からは、破産処理の段階で市美術館の収蔵品保護と年金受給者救済策、民間企業の支援で行われている長期の財政予測と州の財政への関与、公共サービスの縮小、民間資金の流入増加などについての話を聞いた。

職員の年金や福利厚生を充実させたことが財政の重荷となり、歳入不足を債券発行でごまかしてきたことが財政破綻を招いた。人口は最盛期の1/3まで減って市街地は荒廃し、治安が悪化する悪循環に陥った。

財政の改善だけでは荒廃した市の復活は困難だ。市長特別アドバイザーのジル・フォード氏からは、ランドバンクによる急速な空き家解体を通じた荒廃対策と中心部から外れた地区での移動時間20分程度で生活を充足できるコミュニティ開発、中小の起業家を呼び込むためのマッチング事業などの説明を受けた。二人の話で共通しているのは、市の財政規律が取り戻されたことで、民間資金の流入も活発になったという点だ。

NPOとして都市再生に関わるDetroit Future Cityでは、同団体がこれまでに取り組んできた長期の都市戦略策定とグリーンインフラ整備の活動について聞いた。荒廃した都市ですぐに不動産開発をしようとしても困難なため、空き地を緑化することで街の魅力を向上させるのが目的だという。

市の中心部は、ローン会社が立ち上げた不動産会社によって急速な資産改修が進んで1.5万人を超える雇用が創出され、目抜き通りには民間の援助で整備が進んだトラムも運行を開始しており、再生の兆しを感じさせた。


デトロイトの衰退の象徴ともいわれたミシガン中央駅。窓ガラスも修理されオフィスビル

2日目/老朽化対策の運輸PPPと地区開発

オバマ政権以降、インフラ老朽化対策が大きな課題となっている。連邦政府は対策の一環として運輸、下水道、地方部開発のためにPPP活用の方針を打ち出し、2016年に運輸省内にビルドアメリカ局を設置してPPPツールの開発や州・自治体への教育、事例収集を開始した。

同局は、2015年に制定されたアメリカ陸上交通修復法(FAST法)等を通じた陸上交通の整備・改修に5年間で3000億ドル超の拠出を計画している。さらに、交通社会資本資金調達および革新法(TIFIA)による信用保証を民間資金の呼び水とし、インフラの改善を図る。

コンセッションやBOTに限らず、こういった民間参画を促すための資金調達援助や税優遇、債券等もPPPと呼ばれる。

米国には全国共通のPPP法はなく、NCPPPによると、約半数の州が何らかのPPP制度を持っており、対象も運輸インフラのみ、公共施設のみ、両方と州ごとに異なる。このほか、特定のプロジェクトのための特別法を制定する州も多い。

DCでは、2つのPPPプロジェクトを視察した。1つは、交通指向型開発PPPの事例として知られるユニオン駅。以前は離れた場所にあった長距離バスターミナルの移設も進んで交通結節点機能が向上し、周辺の開発も進んでいる。

続いて、運河を埋め立てバスの操車場として利用されていた土地をBIDで開発したキャナル公園を訪問した。DCは近年都市再生事業が続いており「ジェントリフィケーション(荒廃した地域の都市再生による高級化)」の進展を実感した。

BIDで整備されたキャナル公園。昔はスクールバスの駐車場だった。噴水は冬はアイススケートリンクに変身する

4日目フロリダ州・Enterprise Floridaとオーランド市

フロリダ州では、オーランド市のオペレーションセンター(OCC)を訪問した。OCCは、交通管理、緊急通報、ネットワーク、災害対応の機能を持つ。

台風、水害、竜巻に特化している災害対応では、行政は一切備蓄物資を持たず、民間の流通在庫のみと割り切りが顕著だ。民間とは物資面、近隣自治体とは人事面での支援体制を構築しているという。その代わり、市近郊16の病院の救急救命室の稼働率も把握でき、災害対応と緊急通報センターで活用するなど、情報収集体制が確立されている。

また、過去に水害にあった地域で公共とコミュニティが共同で「洪水保険格付けプログラム」にも取り組んでいる。浸水区域は住宅保険等が高額となるため、不動産の価値が下がりやすい。格付けを得ることで保険料率が減免できることから、官民が対策を取るインセンティブとなる。

このほか、交通管制センターではが所管する市内の全信号機には監視カメラと各種センサー、通信機能が搭載されている。

フロリダ州の商務局(Enterprise Florida)は、民営化された州の企業誘致部門で、企業誘致の実績で毎年予算を競い合っている。在外事務所も数年おきに契約を勝ち取る必要がある。公共目的を民間経営と実力主義で達成しようとする点は、日本の第三セクターが目指したものを体現していると言えるだろう。

オーランド市の災害対策センター

5日目サンディスプリングス市・進化する契約モデル

サンディスプリングス市では、民間委託している緊急通報センター「Chatcomm」と建設中の新庁舎とその周辺開発を訪問した。

同市は2005年に設立された新しい自治体で、市役所業務のほとんどを1つの民間事業者に委託したことで知られ、第2期の契約は7分割して委託する方式に切り替えて民間事業者の参画を促した。

同様の人口の近隣自治体の1/3程度の行政運営費に抑えることができているため、市の財政状態は健全で、市民の悲願であった市の核となる地区の整備を進めており、市役所とホールはその中心施設となる。大ホールではオペラの上演も可能で、小ホールはパーティ会場としてだけでなく、市議会の議場としても利用する。

この地区の開発にあたっては、市民の声を受け入れて周辺の不動産価値を最大化することを重視。裁判所は新庁舎へ移転しないことや、駐車場は地下化することを決めた。駐車場にはホールに近い区画は有料で事前予約ができる仕組みも導入した。周辺では民間事業者が約300億円を投資して住宅や商業・業務施設の建設を進めている。

Chatcommは、同市と隣市が共同で立ち上げたもので、現在は他の2市の委託も受けて4市をカバーしている。毎月扱う緊急通報は約1.3万件に上る。業務委託のKPIは電話の応答時間と緊急車両の到着時間で、定められた到着時間を超過する率が一定を超えると警告や減額などが行われる。

緊急通報業務を受託するためには認証を取得する必要があり、新規に採用した社員も6か月の研修を受ける必要があるという。このほかにも市政に関する相談等を受けるコールセンターは別途設置されており、市民の好評を博しているという。

サンディスプリングス市の新庁舎

4期生 難波 悠

東洋大学経済学研究科公民連携専攻 教授

(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)