最近の公民連携手法の一つとして、自治体と企業、大学とが「包括連携協定」を締結するケースが増加している。この背景として、自治体側のリソース不足、企業側のCSRまたはCSV活動の充実とSDGsへの取組みなどが挙げられる。
ただし、これを定着させるには、関係部署の体制整備のみならず組織トップや他部署の理解と協力を得る必要がある。また、包括連携協定事業の選定を適切に行うとともに、契約手続きの公平性の担保が課題となる。
「包括連携協定」が増加している背景
最近の公民連携手法の一つとして、自治体と企業、大学とが「包括連携協定」を締結するケースが増加している。これまでも特定の社会課題の解決に向けて、自治体と企業、大学のいずれかから具体的な事業の提案がなされ、それに応えるという形で進めることが多い「個別の連携協定」があった。
これに対して、「包括連携協定」は幅広い分野で双方が協働する旨の協定が締結され、その協定を具現化する形で具体的な事業を検討し実施することが前提となっている。
この「包括連携協定」が増加している背景として、自治体側では財源不足で人員削減を実施せざるを得ず、社会課題が増加する中で公共サービスを担う職員の絶対数が少なくなっており、自らが企画立案して事業を実施する余力が乏しくなっていることが挙げられる。
また、行政にはない民間の情報やノウハウ等について、新たな分野での連携の実現や地域振興のために活用しようという動きが増加していることも一因である。
一方、企業側では、CSRまたはCSV活動の充実により社会的課題の解決に正面から向き合う企業が増加してきたこと、さらには近年のSDGsへの取組みをアピールすることで、企業価値と社会的価値の向上を図ることが重要な経営課題になっていることが挙げられる。
同様に大学も、元々ある地域貢献へのミッションとして、大学が持つ教育研究の成果を社会に還元することが求められている。大学の多様な専門的な知見を地域社会の課題解決に活用することで、大学の存在意義が認められ社会貢献を果たすことになる。
「包括連携協定」の事例と実務上の課題
このような中、「包括連携協定」を積極的に推進している地方自治体や民間企業が増えている。たとえば、大阪府では「公民戦略連携デスク」において、令和2年6月10日現在で、49件の企業・大学と包括連携協定等を締結し、企業・大学との対話を通じ、「公」と「民」がwin-winの関係で連携し、府内の地域活性化や社会課題の解決に向けた取組みを進めている。
また、京都銀行では、公務・地域連携部を立ち上げ、地域創生(地方創生)の実現に向けた取組みの一環として、舞鶴市など地方創生に関する包括連携協定を締結して、地域の観光産業や成長産業に対する支援を強化している。
こうした「包括連携協定」のニュースは徐々に増加しているが、その評価についてはこれからだと思われる。何故なら、「公」と「民」が協働して具体的な事業として実施されるとしても、その成果における検証方法はまだ確立されておらず、かつ、中長期間で評価する必要があるからである。
また、「包括連携協定」が双方の組織内で周知され、推進するための体制ができているかと問われたら、必ずしも十分とは言い切れないのではないか。たとえば、「包括連携協定」を実質的に機能させるためには、双方の組織に専担部署の設置と人材を手当てすることが求められる。
だが、「包括連携協定」についてトップの理解と支援が不足していたり、関係部署以外の庁内・社内の協働に対する理解に温度差があるため、窓口の担当者が充分な協力を得られないことが考えられる。さらには窓口の担当者は他の業務と兼務であり、当該業務に専念できない組織内の事情が存在することがある。
包括連携協定が公民連携の手法として定着するための留意点
しかしながら、こうした課題があるとしても、地方自治体の取り組み次第では公民連携の強力な手法になる可能性がある。地方自治体のリソース不足を補完してくれる包括連携協定を上手く活用できれば、少ない負担で地域社会の課題を解決し、地域の活性化に繋げられる。
地域の企業や団体も地域社会の課題解決を新たなビジネスチャンスや協働の機会と捉え、自らのパフォーマンスを発揮することが期待できる。
そのためには、地方自治体では施策と関連付けた包括連携協定事業の選定を適切に行うとともに、事業を実施する際の契約手続きの公平性をどのように担保するかが課題となる。個別の企業と協議した事業について、当初からその企業と随意契約するとなると、契約の公平性について疑義を持たれてしまうリスクがある。
この点、随意契約するのであれば、その合理的理由を説明することはもちろん、公募する場合でもプロポーザルにおけるアドバンテージの評価を適切に行うなどして、説明責任を果たす必要があるのは言うまでもない。
包括連携協定は、連携先がWin-Winの関係であり地域住民を含めた“三方良し”の関係でないとその成果が出にくいため、こうした点も勘案し、包括連携協定が公民連携の手法として定着することを期待したい。
6期生 金 志煥
金 公認会計士事務所 所長
公認会計士・税理士
非営利法人、とりわけNPO法人等のお金や経営の悩みを一緒に解決する専門家
地方自治体の監査や業務支援も実施。
(この原稿は執筆者の責任下で書かれたものであり、東洋大学公民連携専攻や東洋大学PPP研究センター、執筆者の所属組織を代表する意見・意向ではありません)