各自治体では公共施設等総合管理計画を策定し、2020年度中に個別施設計画を策定しなければなりません。重要なことは、各計画を作って終わりにするのではなく、着実に実行に移すことですが、どうやらここに1つの高いハードルが立ちはだかっているようです。そこで自治体で公共施設マネジメントを担当されている修了生にお集まりいただき、公共施設等総合管理計画の進捗状況とともに、実行における課題や工夫、さらにはこれからの公共施設マネジメントのあり方などについて、Zoomにて議論していただきました。後編をお届けします。
<参加者>
●岡田直晃氏
東洋大学公民連携専攻3.5期。和光市資産戦略課(任期付)
津市東京事務所、公共施設マネジメント関連コンサルタント、習志野市資産管理課を経て現職。習志野市では公共施設再生計画、大久保地区公共施設再生事業を担当。和光市では公共施設マネジメント実行計画、広沢複合施設整備・運営事業を推進するかたわら、女子美術大学非常勤講師として「ファシリテーションデザイン概論」を担当。
●S氏
東洋大学公民連携専攻7期生。埼玉県内自治体職員。
個別施設計画を策定中。
●U氏
東洋大学公民連携専攻12期生。広島県内自治体職員。
公共施設の再編(体育館や公民館を新たに再編整備する際、新たに子育て支援の機能を付加するプロジェクト)を担当中。
●杉山健一氏
東洋大学公民連携専攻12期生。東村山市資産マネジメント課長。
固定資産台帳の整備、公共施設マネジメント、民間提案などに従事。
●山田快広氏(司会)
東洋大学公民連携専攻13期生。ランドブレイン株式会社。
コンサルタントとして、公共施設等総合管理計画や個別施設計画、PFI事業に携わる。
「ハコ」より難しい「サービス」のPPP
山田氏 公共施設という「ハコ」ではなく「公共サービス」を持続させるという視点で考えても、PPPはその1つの手段となりえます。官と民がいかに連携するかについて、PPPの案件形成の留意点などを伺えますか。
U氏 当市では水族館や給食センター、廃棄物処理施設などの整備をPFIやDBO手法を用いて整備した経緯があり、施設整備において民間活用をすることに対して庁内に大きな抵抗感はありません。現在、DBO手法による公共施設の再編事業を民間と共同で進めています。
本案件では施設を整備する面だけでなくサービス面でも民間のノウハウを生かしたいと考えています。ただ、サービス提供において民間の力を取り入れることに、子育て部局や図書館部局から不安の声は上がりました。先進事例の視察などを行い、PPPのメリットやデメリットなどを一緒に研究しながら、理解をしてもらえるように協議を進めてきました。
また、この事業は4つの機能をもつ複合施設の計画なのですが、施設の機能やサービスを検討していく段階で、(民間のノウハウを取り入れるということで)「今までできなかったあのサービスもやりたい」「このサービスも取り入れたい」と、どんどん要求水準が膨らんでいってしまいました。
予算には限界があるので、したいサービスすべてを盛り込めませんし、建物も大きくなってしまいます。事務局で取り入れるものとそうでないものを取捨選択すると、担当課にとっては自分たちの意見が取り上げてもらえなくておもしろくない思いをしてしまいます。その調整が難しかったです。
山田氏 複合化をPPPで実施するとき、内部調整はかなり難しそうですね。
U氏 打ち合わせの回数も多く設けたつもりですが、スポーツ、生涯学習、図書館、子育て、健康推進など大所帯になっていまい、とりまとめをうまく進められませんでした。なので、ある程度は事務局で決めて、多少強引に進めていったところもあります。
まだ施設稼働前ですが、運営が始まったときに、担当課から「事務局が決めたことだから知らない」と言われるのはさみしいので、今後の運営計画の策定段階では、より密に打ち合わせる予定です。ちなみに、設計が始まって(今までは要求水準のイメージのみだったものが、具体的なプランを前に作業を進められるようになったことで、)担当課は考えやすくなったと思います。
岡田氏 庁内調整を図り、プロジェクトをスムーズに進行させるために、私の所属している資産戦略課では役割分担をしています。プロパーの職員は嫌われないように「太陽」、任期付きの私は憎まれ役の「北風」です。プロパーの職員は退職まで組織にいますから、嫌われるとほされます。私が担当課に厳しく言って、プロパーの職員がそのフォローをするといった感じで調整をとっていきます。
以前に習志野市に在籍していた時に、ある学者に揶揄されました。「習志野市は紙(計画)ばっかり作って全く進んでいない。計画はそこそこにどんどん事業を実行していくべきだ。」と。しかし、事業に素早く着手していった自治体には、優先交渉権者が決まった後なのに庁内調整が進んでおらず、途中で頓挫してしまったり、各方面からの反対で実現しなかった事例も複数あります。計画や調整は地味な作業ですが、公共の仕事としては非常に重要なものです。
S氏 当市ではまだPPP案件はありませんが、昨年、民間企業に小学校の跡地を売却するのではなく、初めて定期借地契約を行いました。土地の造成コストを官民のどちらが負担するかという議論もあったのですが、「この機を逃すとこの土地を活かせない」という機運が庁内で高まり、関連経費を補正予算で対応するなど、前例にない動きがありました。
また、現在、大規模工場跡地の開発を、土地を所有する民間企業と協働で取り組んでおり、民間と一緒にやろう、という意識が芽生えてきたと感じています。
山田氏 その意識の変化は素晴らしいですね。
目的はPPPではなく、住民官民の三方良し
山田氏 様々な苦労があるようですが、それでも公的化せず、PPPを選ぶのはなぜなのでしょうか。
U氏 民間だからいいサービスが実現できる、とは思っていません。公共による直営でも人が集まる施設や講座などはたくさんあります。
ただ、人を惹きつけるアイデアやイマジネーションについては、公共は訓練の機会があまりなく、民間の方が優れているということは事実です。要は活かし方次第で、PPPに固執する必要もないと思っています。
山田氏 PPPが目的ではありませんよね。
杉山氏 コツはできることからやることと、担当課の困りごとを解決する視点を持つこと。目的をPPPにすると、うまくいかないですね。議会説明も同じで、市民サービスを向上したり、持続可能にしたりという議論にもっていかないと行き詰ります。
事業者には稼いでもらって、行政は生産性を上げて、市民サービスも向上する。この三方良しをPPP方針などで明文化して提示し、それをもとに議論するようにしています。新しいことをやろうとしても多くの自治体職員は余力がなくてしり込みしがちですが、三方良しの案件ならノリやすいと思います。
岡田氏 PPPがうまくはまる場合とはまらない場合があります。自治体にノウハウがない場合や、利用者から料金をいただくような施設、民間施設との合築などと相性がいい公共施設は比較的うまくいきます。
官と民がうまくマッチングできるかは、内と外にアンテナを高くしておく必要があります。内向きのアンテナは、担当課から日々の状況や課題をよく聞いておくこと、外向きのアンテナは、景気など民間事業者がどのような状態にあるかという情報です。庁内情報についてはプロパー職員、外の情報収集とネットワークは、任期付職員である私の役割となります。
公務員も営業しようよ!
山田氏 官からのボールを受け取ってくれる民間事業者が少ないという声がある中、どのようにして民間企業を探してくるのですか。
岡田氏 民間のPPP担当者からすると、私のボールはどうやら“インコース高め”すぎて、面倒くさいらしいです(笑)。公共施設の課題を本当に解決するようなPPPはどうしてもワンオフ(注:案件ごとのオリジナル)になりがちなので、「既製事業」を拡販したい方々には避けられますので、こちらから営業をかけて、常に担い手を探しています。
山田氏 自治体の方はとかくコスト縮減を重視しがちで、そこまで積極的に民間事業者だからこそできる面白いことを探していこうという人は少ないような気もします。
杉山氏 少数派でしょう。民間提案制度に取り組んでいる自治体の方と話をしても、営業に行く人と行かない人とで分かれます。
営業することの良し悪しはあろうと思いますが、後で官民双方が「こんなはずじゃなかった」ということにならないように、営業をして自治体がやりたいことを伝えることは非常に重要だと思います。
山田氏 おっしゃるように、自治体が自分たちのやりたいことを出す、という行為がPPPの肝のはず。PPPは単なる仕組みではありませんよね。
聴講者 特定の企業だけに話をすることはけしからん、ということで自治体から民間企業への営業はすべきではないという意見もあります。
岡田氏 事前のヒアリングが非公式だとしても、公式なサウンディングをきちんと実施し、水面上に出せば、歴とした公式の民間事業者の意見になります。
あと、これまでの経験では、ビジネス目線で市民と話をすると、おもしろい方向に広がっていくことが多かったです。最近では、PFI工事のモニタリングを市内の設計事務所にお願いしたのですが、まめにチェックや報告をしてくれて、コストも大手の5分の1くらいで非常に助かりました。
PPPは、市内事業者はもちろんのこと、さまざまな人とのつながりの中で案件が作られていきます。だから営業は公務員の動き方にも合致していると思います。
杉山氏 サウンディングをしてみて、行政の悩みごとを民間事業者と一緒に考えてもいいんだと分かりました。この感触を庁内に広めるために、サウンディングは使えます。仕組みとして成り立っているので、個人の技量は関係ないです。別の課がやっているサウンディングに同席するだけでも勉強になります。
聴講者 事前のヒアリングで民が率直に話をしないと、官の方も興味を持ってくれませんし、率直に話をしてくれません。互いに率直に話をすることで、初めて信頼関係を構築できるのだと思います。よりフランクなサウンディングの仕組みがあるといいのかもしれません。
課題はPPPの継続でしょう。自治体には異動がありますし、岡田さんのような任期付き職員が辞めてしまったらどうなるか。個人のスキルに頼ることなく、PPPの思いやノウハウをいかに継承するかを考えないといけません。
岡田氏 しっかり引き継いでくれるのは、プロパーの職員だけではありません。民間事業者や市民も継承者です。計画や要求水準に基づく契約などをきちんとやっておけば、必然的に流れていきますし、課題が出てきても乗り越えていきます。
杉山氏 庁外にDNAを残したり、計画などに仕込むことで継承できるということですね。自治体職員は道半ばで異動することが普通なので、そうやって心残りなく取り組んでいこうと思います。
山田氏 皆様ありがとうございました。
<後半のまとめ>
PPPを進めるコツは、できることからやっていくこと。
庁内調整においては、北風と太陽の考え方がある。いきなり「計画に記載されているのでやって」ではなく、まずは担当課に寄り添って(太陽)、長期的には、総合管理計画に基づいてやっている(北風)といった考え方が重要である。
民間企業にアプローチする際には、まず自治体自身がやりたいことを明確化することが重要。それをやりたい民間事業者を探す「営業」をかける。その際にサウンディング調査などのフランクな手法でもよいと思う。
事業段階では、庁内でぶつかり要求水準が大きくなりがちだが、常に民間事業者のできることとのバランスをとるべき。
いずれにしても、目的は住民サービスの向上であることを忘れてはならない。PPPが目的ではなく、直営でもいい場合もある。
PPPとしてやっていく場合、サウンディングという仕組みで官民の人のつながりができれば、庁内に担当者がいなくなっても民間が引き継いでくれる。市民・行政・事業者が一緒にやっていかないといけない。
5期生 奥田 早希子(執筆)
一般社団法人Water-n 代表理事、フリーライター・編集者
活動分野は水インフラ
Webジャーナル「Mizu Design」運営
水を還すヒト・コト・モノマガジン「Water-n」発行
下水道広報プラットホーム企画運営委員、環境新聞契約記者など