市と鉄道会社の連携による価値創造 ~SL日本遺産のまち行田号~ 遠藤健(1期生)

市と鉄道会社の連携による価値創造 ~SL日本遺産のまち行田号~ 遠藤健(1期生)

2026年7月11日(土)と12日(日)、秩父鉄道と行田市の連携により、特別列車「SL 日本遺産のまち行田号」が運行されました。筆者は7月12日(日)の第1便(熊谷駅9時22分発、行田市駅10時11分着)に乗車し、SLでの旅と行田市の魅力を満喫しました。

本稿ではその様子をご紹介しつつ、今後に望まれる要素を記します。

◆行田市

埼玉県行田市は人口約7.6万人。国宝「金錯銘鉄剣(きんさくめいてっけん)」を出土した東日本最大級の「埼玉古墳群」、石田三成の水攻めを耐え抜いた「忍城址」、かつて全国シェア8割という圧倒的な生産地だった「足袋」、2015年にギネス世界記録に認定された「田んぼアート」、現代的で美しい「花手水(はなちょうず)」や「ライトアップイベント希望の光」など、時代を超えた多彩な資源を持つ街です。

2023年4月、さきたま古墳公園内にオープンした「観光物産館さきたまテラス」では「わたぼくソフトクリーム」が幅広い年齢の方々に人気を博しています。

◆手軽なSL旅

秩父鉄道は土日祝を中心に通年で「SLパレオエクスプレス」号を運行しています。普段は熊谷駅から西に向かい、三峰口駅(秩父市)まで約2時間40分という、ゆったりとしたSL旅を楽しむことができます。今回は熊谷駅から(通常運行時の西ではなく)東に向かいます。約50分間の特別運行のため、小さなお子様連れにとっても「手軽なSL旅」を楽しむことができる行程となっていました(写真1)。

写真1 SL日本遺産のまち行田号
写真:行田市提供

写真2 日本遺産のまちめぐり

◆行田市周遊

SLの行田市駅到着後、行田市内を巡る多彩なエクスカーションが実施されました。私は「人気ガイドと巡る!日本遺産のまちめぐりコース」「大将・姫とあるく!忍城の歴史めぐり」「ボンネットバスで足袋蔵のまち遊覧」という3企画にて、街の魅力を満喫しました。

これらの企画は、2022年3月に登録観光地域づくり法人(登録DMO)となった一般社団法人行田おもてなし観光局が中心となり、実施されました。

人気ガイドと巡る!日本遺産のまちめぐりコース

行田市は2017年4月、「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」とのストーリーで日本遺産認定を受けました。街なかには、足袋産業を支えた数多くの「足袋蔵」が残り、往年の姿を今に伝えています。この街を“NHKの人気まちあるき番組”で案内役を務めたガイドさんにご案内いただきました(写真2)。行田に関するさまざまな知見がほとばしり、一瞬たりとも沈黙の時がない1時間強。足袋文化や足袋蔵の特徴を熱く的確にご解説いただきました。案内役ご自宅の蔵での鉄道に関する「協賛展示」に加え、日本遺産構成資産の「店蔵」を活用して昨年開業したばかりのセレクトショップもご紹介いただくなど、過去を振り返るだけではなく、昔と今の両方が大切にされている街の姿をご紹介いただきました。

◆大将・姫とあるく!忍城の歴史めぐり

石田三成の水攻めから忍城を守り切った成田長親公(のぼう様)と甲斐姫に、忍城周辺をご案内いただきました(写真3)。城下町の当時が想起される道を歩き、城下町の都市構造を解説いただきました。ツアー途中では忍城の戦いを紙芝居で分かり易く解説いただきました(写真4)。また「まだ殆どの行田市民がご存じない」と前置きしたうえで、成田長親公のお墓が、つい最近、菩提寺の大光院(名古屋市中区大須)から清善寺に移されたことも 解説いただきました。

長親公は「忍城おもてなし甲冑隊」として、行田市の各種催事で大活躍なされています。この日の甲斐姫は特別な方にお務めいただけたようです。とても楽しく学びのあるツアーでした。

写真3 忍城の歴史めぐり

写真4 紙芝居

◆ボンネットバスで足袋蔵のまち遊覧

“NHKの人気まちあるき番組”で案内役を務めたガイドさんが再登場なさり、ガイドさんと運転手さんの気の向くままに行田の街を巡るという凄い企画でした。複数台のボンネット バスを所有なさっている個人の方が、当日のバスの調子を見極めて運行バスを決めるため「当日までバスの席数が分からない」といったご苦労もあったようです。ボンネットバスのレトロな雰囲気が行田の街とマッチしていました(写真5)。

◆結びにかえて

鉄道会社は、交流人口が増えると、鉄道乗客数や営業収入の増に繋がることが期待されるため、今回のような連携を行うインセンティブがあります。一例として、京浜急行電鉄の「みさきまぐろきっぷ」などは効果的な事例でしょう。地方自治体やDMOとして、特徴的な企画(今回はSLの運行)により訪れてくれたお客様に対し、的確な情報提供を行い、当地でのひとときを楽しんでいただき、さまざまな体験を通じて滞在時間の長期化を図り、当地を効果的に印象付けることで、いかに再訪に繋げられるかがポイントでしょう。

行田市は、埼玉古墳群や古代蓮の里こそ鉄道駅(JR行田駅、秩父鉄道行田市駅)から離れているものの、その他の多くの観光スポットは比較的コンパクトにまとまっており、徒歩やレンタサイクルによる街歩きに適した街です。店舗として活用される足袋蔵もあるほか、フライやゼリーフライといった当地の歴史に根付いたグルメもあります。街中もオーバーツーリズムに悩む他の観光都市ほど混雑していません。何より、市やDMOの職員など、観光まちづくりに関わる方々の前向きさや熱量・愛情を感じることが多いのも素晴らしい点です。

今回のSL乗客のうち、①どのくらいの割合の方が、②どのくらいの時間にわたって行田に滞在し、③どのような活動を行ったか、④再訪意欲はどうか等、来訪者の行動履歴の把握や効果測定を行うことができれば、より実践的な誘客に繋げられるはずです。

秩父鉄道と行田市の連携・挑戦が更なる高みに向かうことを願ってやみません。

写真5 ボンネットバス

写真6 特別客車案内板(サボ)

遠藤健 氏

2008年東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻修了

東洋大学国際PPP研究所リサーチパートナー 修士(経済学)